結局、衛宮を尋問するのに特に小細工は考えなかった。
呼び出して、まじめに聞く。それだけ。
元々ややこしい事を考えるのは苦手だし、衛宮相手ならそれで良いように思ったからだ。
まじめに訊けば、まじめに応えるだろう。
その場に咄嗟にとぼけるとかは多分衛宮はしない、というか出来る器用さはない。
「知らない」と言うならあたしはそれを信じる。
ただ、「言えない」と答える可能性は多分にあるだろう。そのときはその時考えよう。
とは言え内容はプライベートなのでなるべく人目は避けた所で訊きたいけれど、学校にはまとまった時間を確保できる密室は案外少ない。部長権限で鍵が自由にできる弓道場はあたしにとってはうってつけであるため、部活が休みである今日、そこへ衛宮を連れ出すのがベターだろうと考えた。
衛宮とあたしの席は遠くない。日頃からも決して話さない仲ではないので、2限の休み時間に声を掛けるのにも特に緊張も構えることもなかった。
「ああ、衛宮」
「ん?なんだ美綴」
「あのさぁ、」
――――――――――あれ?何だ、これ――――――――――
「・・・6限の数学の課題、見してくんない?」
「珍しいな。いいけど、俺も合ってるか保証はしかねるぞ?」
「あー構わない構わない。積分がちょっと自信なくてさ、参考に」
「確実なのなら、遠坂とかの方がいいんじゃないか?」
衛宮の視線に釣られて上げた視線の先で、遠坂は次の授業の教科書を取り出す最中だった。
ということは、遠坂じゃない何かからか。
「わり、衛宮。5限までには返す」
「ん」
・・・背後に妙に視線を感じたような気がして、何故か。咄嗟に話す内容を切り替えてしまった。
買い食いに誘ったことだってある。その逆もある。
衛宮とは程よく仲の良い友人の一人、だったはず。
特に疚しいところもなく、話があるんで放課後弓道場に誘うくらい、そこまで人目を憚るほどの事でもないはずだったのに。
見られていると感じたとたん何か良く分からない感覚がしてなんとなく、誘うのをやめてしまった。
ただそういえばここ最近、視線を感じて振り向くと大抵誰かと目が合う。
というか、復帰後はなんだか全般的にカンが冴えてる気がする。部活じゃ山ほど束ねた矢から自分の矢を一発で引き当てるし、家に帰って冷蔵庫を外から見ただけで「今夜シチューか・・・」と一発的中して母親をびっくりさせたりしている。
野球とかで言やぁ『やたら視えてる』という感じだ。
とはいえ、あまり今日という日を逃したくはない。
後でまた、誘いなおそう。誰が見ていても関係ない。
「どうしたの?次音楽室だよね」
「―――――――――ああ、今行くよ。由紀香」