雨の日の学年主席たち06
- 2008/03/29
- 18:32
下駄箱に向かって走る。
私達は勿論互いにライバルなのだが、しばらくするうち実質数名単位で変則の共闘体制が出来上がっていた。
名雪は一緒に住んでるあゆちゃん、沢渡さんの通称『水瀬三姉妹』と私。
私は名雪と栞。
あゆちゃんは名雪と沢渡さん。
沢渡さんは名雪とあゆちゃんと天野さん。
栞は私と天野さん。
天野さんは沢渡さんと栞。
そして川澄先輩は倉田先輩、倉田先輩は川澄先輩。
秋子おばさまはさすがに保護者の立場だけれど、名雪、あゆちゃん、沢渡さんの背中をそっと押すくらいはしてるらしい。
このグループは固定的なものでなく、状況に応じて嫌になるほど柔軟に敵味方が入れ替わる。
水瀬家にあれば水瀬組と非水瀬組。
教室にあれば学年対抗。
天然、ないしは野生のカン派と理知派。
美坂家、非美坂家。
………大きい組、小さい組。何が大きい、小さいかは栞の名誉の為に伏せておこう。
最近また少し差をつけてしまったので栞の視線が厳しい。
―――――既に倉田先輩と相沢くんが遠目に見える。数百メートル先くらいか。
すばやく靴を履き替えながら作戦を練る。
ともかく、共闘状態になったら自分たちの勝利となるまでは原則協力する。
その後は再び絞られた面子で決勝戦だったり、分かち合ったりだ。
たとえばあの上級生コンビは常に分かち合っている。ちなみに美坂家では分かち合うという行為は今まで一度も行われていない。
血は水よりかは濃いという言葉を作った人を訴えてやりたい。あら、なにか違ったっけ。
(…………にしても、ね)
今日はとりわけ厄介なのに捕まったものだわ、と思う。
正直言って、私は彼女が一番苦手だ。もちろん人としてではなく、ライバルとしてだ。
可愛らしすぎる容姿。料理上手。男女問わず好かれる人柄。そして神が如き知力と武力。
特にあの知力―――もちろん学業とは関係ないそれ―――は、反則の領域だ。
私もそっちにかけてはそれなりに自信を持っている方だが、所詮は人知の及ぶ範囲内だ。
そういう意味では天野さんは私に近い。
――――直接対決でこちらの傘に引きずり込める確率は低い。
どんなにもっともらしい理由を並べたところで舌戦であの先輩にだけは勝てる気がしない。
というかむしろ言葉じりを逆手に取られてねじあげられたあげく、いちゃつくのを見せ付けられる極悪放置プレイ確定だ。だって経験済みだし。
じゃあ、次善の策は―――?迂回路を駆け抜けながら頭をめぐらす。
すぐに、私の家の方が倉田先輩の家よりも相沢くんの家―――名雪の家だけど―――に近い事に思い至る。
しかも武力もとんでもない。
私は先日見てしまった。じゃれて北川君を追いかけてた相沢君に、廊下の角で衝突される瞬間を。
電光石火の足払い、プラス。神速で相沢くんの袖を掴んで引き、腕を脇に抱える倉田先輩。
その結果。『ぶつかった拍子に倉田先輩を押し倒して抱きかかえる相沢くんと、
いやんこんなあかるいうちからダメですよ~、な倉田先輩』の図が出来上がる。
しかも御丁寧に自分の背中で相沢くんの右手を極めて簡単には起き上がれなくするオマケつき。
倉田先輩のあの動きが見えたのは多分私だけだ。当事者の相沢くんにさえ気づかせない恐るべき早業。
―――――それならば、『必然』の状況を『偶然』作ればいい。私の傘の内側へ奪いかえす必然を。
とどめには『ふえ、足をひねってしまったみたいで歩けません~』と保健室まで相沢くんにおんぶさせ、ツインバズーカ砲の威力を完膚なきまでに叩きつけていた。
しかも栞のスカウター(無駄に精度がいい)によると最近戦闘力を84から87にまで高めてきているらしい。
…………この話題から離れよう。栞があんまり騒ぐせいで、最近私もどうかしている。
遠く先を行く傘の中の二人を避け、脇道に入り駆け足で住宅街を抜けていく。
靴下やスカートの裾に水はねが飛ぶが気にしていられない。
『ある地点』に彼らよりも遠回りして先に待ち構えていなければならないのだから。
傘を騎乗槍のように斜め前に構えて走る。小さく「ワルキューレの騎行」のメロディーを口ずさんで、まるで騎士ねとくだらない事を思う。
栞、お姉ちゃんはやるわよ。
なんだか少し楽しくなってきた。
出来損ないの王子様を、狡猾な悪の魔女―――むしろマジカルさゆりん?―――の手から取り戻すのだ。
決戦場まで、あと少し。
私達は勿論互いにライバルなのだが、しばらくするうち実質数名単位で変則の共闘体制が出来上がっていた。
名雪は一緒に住んでるあゆちゃん、沢渡さんの通称『水瀬三姉妹』と私。
私は名雪と栞。
あゆちゃんは名雪と沢渡さん。
沢渡さんは名雪とあゆちゃんと天野さん。
栞は私と天野さん。
天野さんは沢渡さんと栞。
そして川澄先輩は倉田先輩、倉田先輩は川澄先輩。
秋子おばさまはさすがに保護者の立場だけれど、名雪、あゆちゃん、沢渡さんの背中をそっと押すくらいはしてるらしい。
このグループは固定的なものでなく、状況に応じて嫌になるほど柔軟に敵味方が入れ替わる。
水瀬家にあれば水瀬組と非水瀬組。
教室にあれば学年対抗。
天然、ないしは野生のカン派と理知派。
美坂家、非美坂家。
………大きい組、小さい組。何が大きい、小さいかは栞の名誉の為に伏せておこう。
最近また少し差をつけてしまったので栞の視線が厳しい。
―――――既に倉田先輩と相沢くんが遠目に見える。数百メートル先くらいか。
すばやく靴を履き替えながら作戦を練る。
ともかく、共闘状態になったら自分たちの勝利となるまでは原則協力する。
その後は再び絞られた面子で決勝戦だったり、分かち合ったりだ。
たとえばあの上級生コンビは常に分かち合っている。ちなみに美坂家では分かち合うという行為は今まで一度も行われていない。
血は水よりかは濃いという言葉を作った人を訴えてやりたい。あら、なにか違ったっけ。
(…………にしても、ね)
今日はとりわけ厄介なのに捕まったものだわ、と思う。
正直言って、私は彼女が一番苦手だ。もちろん人としてではなく、ライバルとしてだ。
可愛らしすぎる容姿。料理上手。男女問わず好かれる人柄。そして神が如き知力と武力。
特にあの知力―――もちろん学業とは関係ないそれ―――は、反則の領域だ。
私もそっちにかけてはそれなりに自信を持っている方だが、所詮は人知の及ぶ範囲内だ。
そういう意味では天野さんは私に近い。
――――直接対決でこちらの傘に引きずり込める確率は低い。
どんなにもっともらしい理由を並べたところで舌戦であの先輩にだけは勝てる気がしない。
というかむしろ言葉じりを逆手に取られてねじあげられたあげく、いちゃつくのを見せ付けられる極悪放置プレイ確定だ。だって経験済みだし。
じゃあ、次善の策は―――?迂回路を駆け抜けながら頭をめぐらす。
すぐに、私の家の方が倉田先輩の家よりも相沢くんの家―――名雪の家だけど―――に近い事に思い至る。
しかも武力もとんでもない。
私は先日見てしまった。じゃれて北川君を追いかけてた相沢君に、廊下の角で衝突される瞬間を。
電光石火の足払い、プラス。神速で相沢くんの袖を掴んで引き、腕を脇に抱える倉田先輩。
その結果。『ぶつかった拍子に倉田先輩を押し倒して抱きかかえる相沢くんと、
いやんこんなあかるいうちからダメですよ~、な倉田先輩』の図が出来上がる。
しかも御丁寧に自分の背中で相沢くんの右手を極めて簡単には起き上がれなくするオマケつき。
倉田先輩のあの動きが見えたのは多分私だけだ。当事者の相沢くんにさえ気づかせない恐るべき早業。
―――――それならば、『必然』の状況を『偶然』作ればいい。私の傘の内側へ奪いかえす必然を。
とどめには『ふえ、足をひねってしまったみたいで歩けません~』と保健室まで相沢くんにおんぶさせ、ツインバズーカ砲の威力を完膚なきまでに叩きつけていた。
しかも栞のスカウター(無駄に精度がいい)によると最近戦闘力を84から87にまで高めてきているらしい。
…………この話題から離れよう。栞があんまり騒ぐせいで、最近私もどうかしている。
遠く先を行く傘の中の二人を避け、脇道に入り駆け足で住宅街を抜けていく。
靴下やスカートの裾に水はねが飛ぶが気にしていられない。
『ある地点』に彼らよりも遠回りして先に待ち構えていなければならないのだから。
傘を騎乗槍のように斜め前に構えて走る。小さく「ワルキューレの騎行」のメロディーを口ずさんで、まるで騎士ねとくだらない事を思う。
栞、お姉ちゃんはやるわよ。
なんだか少し楽しくなってきた。
出来損ないの王子様を、狡猾な悪の魔女―――むしろマジカルさゆりん?―――の手から取り戻すのだ。
決戦場まで、あと少し。