薄暮迷宮4
- 2008/06/21
- 14:41
鐘の考察
―――――――――――――やはり、そうか。
予想通り、美綴嬢は『弓道場に寄らずに』帰っていったのを私は窓から眺めていた。
教室を出て帰っていく男女二人連れが衛宮と遠坂嬢だと気づいたのは、遠坂がわずかにこちらを振り返り軽く会釈した為だ。
そして直後に美術室の入り口で座り込んでいる美綴嬢を私は見る事になった。
人知れず詮索するのがわりあい好きな私の直感が、これは訳有りと判断した。
こんなところで何をしているのか、という問いに彼女の表情は雄弁に『教室内を伺っていた』と語っていた。
ただそれだけなら、私にそういえば良い。言わないのは、何らかの事情―――――言いたくない事情があるからだ。
そして雑巾が要ると彼女が言った時点で、確信に変わった。
なぜならば、今まで野球部が雑巾を借りにきた事などただの一度も無い。そもそも美術部に雑巾が大量にあるという風評自体が私のその場の作り話だからだ。
ただ、ひとつ自信が持てない点があった。
美綴嬢自身が彼等に関係があるのか?それとも、彼女自身は無関係で、彼等のなんらかのプライバシーを知ってしまってそれを守ってやろうとしたのか?
それを知る為、衛宮は既に帰途についているのを承知で『衛宮にでも』と名を出して(やや引っ掛けくさく)彼女の表情を伺ってみた。
ただ、この結果はグレーだった。はっきりしない。惚れた女心のせいか、関係ある、というように見えたような気もするが確信は持てない。
ちょっと頭を整理しよう。
――――――――衛宮と遠坂嬢は、何らかの秘密を持っている。
――――――――美綴嬢はそのうちのある程度かあるいは全てを知ってしまった。
――――――――美綴嬢も、衛宮と遠坂の秘密に関係している可能性がある。
これらから、私は容易にあまり楽しくない想像が出来てしまう。
しかしちょっと考えてみれば『それ』はあり得ない。
なにしろ衛宮は付き合っている女子はいないだろうという私の言を否定はしなかった。この点、ひとかどのジゴロであればともかく衛宮の性格では真であると判断していい。
ただ、私が衛宮の秘密―――――――と聞いて真っ先にして唯一思いつくのは、あの『何も無い』表情についてだ。おそらくは、あれに関連する事ではないのか。しかしなにぶん私の衛宮に関する知識は乏しいと言わざるを得ず、そうで無い可能性も十分にある。
別に、彼女らは衛宮の恋人ではない。
仮に彼女らのいずれかあるいは両方が衛宮に想いを寄せていても、あるいはその逆でも私のやる事は変わらない。
――――――――由紀香や蒔の字との昼食時に語った、衛宮を見る目に『変化のあった二人』。
遠坂嬢は、厳しい視線。
美綴嬢は、変なものを見た、という視線だった。
その二人が、揃って衛宮の秘密に関係している。
――――――――なんとなく、いやな符丁を感じる。
よって、わたくし氷室鐘は。
彼女らについていま少し知る必要があると思われる、と結論付けた。
―――――――――――――やはり、そうか。
予想通り、美綴嬢は『弓道場に寄らずに』帰っていったのを私は窓から眺めていた。
教室を出て帰っていく男女二人連れが衛宮と遠坂嬢だと気づいたのは、遠坂がわずかにこちらを振り返り軽く会釈した為だ。
そして直後に美術室の入り口で座り込んでいる美綴嬢を私は見る事になった。
人知れず詮索するのがわりあい好きな私の直感が、これは訳有りと判断した。
こんなところで何をしているのか、という問いに彼女の表情は雄弁に『教室内を伺っていた』と語っていた。
ただそれだけなら、私にそういえば良い。言わないのは、何らかの事情―――――言いたくない事情があるからだ。
そして雑巾が要ると彼女が言った時点で、確信に変わった。
なぜならば、今まで野球部が雑巾を借りにきた事などただの一度も無い。そもそも美術部に雑巾が大量にあるという風評自体が私のその場の作り話だからだ。
ただ、ひとつ自信が持てない点があった。
美綴嬢自身が彼等に関係があるのか?それとも、彼女自身は無関係で、彼等のなんらかのプライバシーを知ってしまってそれを守ってやろうとしたのか?
それを知る為、衛宮は既に帰途についているのを承知で『衛宮にでも』と名を出して(やや引っ掛けくさく)彼女の表情を伺ってみた。
ただ、この結果はグレーだった。はっきりしない。惚れた女心のせいか、関係ある、というように見えたような気もするが確信は持てない。
ちょっと頭を整理しよう。
――――――――衛宮と遠坂嬢は、何らかの秘密を持っている。
――――――――美綴嬢はそのうちのある程度かあるいは全てを知ってしまった。
――――――――美綴嬢も、衛宮と遠坂の秘密に関係している可能性がある。
これらから、私は容易にあまり楽しくない想像が出来てしまう。
しかしちょっと考えてみれば『それ』はあり得ない。
なにしろ衛宮は付き合っている女子はいないだろうという私の言を否定はしなかった。この点、ひとかどのジゴロであればともかく衛宮の性格では真であると判断していい。
ただ、私が衛宮の秘密―――――――と聞いて真っ先にして唯一思いつくのは、あの『何も無い』表情についてだ。おそらくは、あれに関連する事ではないのか。しかしなにぶん私の衛宮に関する知識は乏しいと言わざるを得ず、そうで無い可能性も十分にある。
別に、彼女らは衛宮の恋人ではない。
仮に彼女らのいずれかあるいは両方が衛宮に想いを寄せていても、あるいはその逆でも私のやる事は変わらない。
――――――――由紀香や蒔の字との昼食時に語った、衛宮を見る目に『変化のあった二人』。
遠坂嬢は、厳しい視線。
美綴嬢は、変なものを見た、という視線だった。
その二人が、揃って衛宮の秘密に関係している。
――――――――なんとなく、いやな符丁を感じる。
よって、わたくし氷室鐘は。
彼女らについていま少し知る必要があると思われる、と結論付けた。