雨の日の学年主席たち05
- 2008/03/29
- 18:31
今日は始めからツイていなかった。
日直の仕事を終え、早足で生徒の少なくなった廊下を歩きながら思う。
朝は名雪たちのとばっちりを受けて遅刻スレスレ。
昼は栞のお弁当に巻き添えの上置き傘を奪われた。
帰りは日直でスタート出遅れ。
しかも名雪も部活(雨の日は体育館だ)で、ガードが外れた状態。
これは、非常に宜しくない。
栞がインターセプトしていてくれればいいんだけど、あの子も今日は美術部だったはず。
薄暗い教室の窓から昇降口付近を見下ろして、男物の傘を捜す。私の教室は見晴らしがいい。
目印は紺地の傘に緑色のアクセサリ。
そのアクセサリとは当然彼自身がつけたものではなく、彼の居候先の娘さんがつけたミニけろぴーなるものだ。
彼女いわく、
『めじるしだよっ』
とのことだがその目印の存在が知れるに連れ、彼女自身が彼と一緒との時はわざわざはずして
迷彩にしている。彼女もぼーっとして見えてなかなか侮れないのだ。
(あ…)
校舎を出て、だいぶ歩いた地点にミニけろぴー発見。あれは間違いない。
しかしそれを持っている人物が明らかに彼でない。もっと小柄だ。
(女の子?)
栞と同じリボン、一年生だ。
(ってことは……あの娘ね)
一年生の学年主席。物腰が上品な赤毛の子。
しかし彼は一緒にはおらず、一人のようだ。
(……………?)
なぜ彼女が彼の傘を使っているのか。今ひとつピンとこない。
答えに至るルートはあるはずだが、たどり着くまでひどく遠いような気がした。
『…………』
はっ、と突然彼女がこちらを見た――――目が合った、ような気がした。
しかし雨の夕方、遠くから電気をつけていない教室内の人間を視認するのは不可能だ。
川澄先輩じゃあるまいし、と当たり前のことに気づくまで2秒以上かかった。
彼女はぼうっとこちらを見ている。何かを考えるかのように。
『!!』
ややあって。彼女は衝撃の表情を浮かべて昇降口の方を向く。
彼女のそんな表情はめったに見た事がない。彼女は、自身の言葉どおり、『落ち着きがあり物腰が上品』だからだ。
そんな表情が見られるのは彼の悪戯が彼女を直撃したときぐらい。
何に驚いて―――衝撃を受けているのか。ますますわからない。
ただ一つ、なんとなく確信めいて感じたのは今自分はチャンスかピンチかのどっちかだということだけ。
だって彼女があんな表情を見せるのは、必ず彼絡みの時だから。
それはさておき、彼女の視線の先を追ってみる。
昇降口。ぱらぱらと吐き出される生徒たち。
その中になんとなく目にとまった―――オンナの勘というやつだ、とある傘があった。女性ものだ。
―――なんとなく、気品と、ある予感を感じて目を凝らしてみると。
傘の中には、あの艶やかな栗色の髪に緑のリボン。ああ、やられた。もう見なくても分かる。
その隣には一年生学年主席をして呆然とさせしめた、あの男がアホ面下げて楽しそーに歩いていた。
天野さんの表情。
相沢君の傘。
合い合い傘の二人。
……………あ、そういうことか。
多分、大体分かった。どういう経過で今があるのか。
まあともかく、一つ分かったのは
(私にとっては概ねピンチ、若干チャンスだってことね)
ため息一つついて鞄を取る。
『ひどいよー香里ー。何の為に私と部活の日をずらしてるんだよー』
『えぅー、祐一さん一人守れないお姉ちゃんなんて無能ですー』
親友と妹の非難の声が聞こえた気がして軽い頭痛を覚えた。
日直の仕事を終え、早足で生徒の少なくなった廊下を歩きながら思う。
朝は名雪たちのとばっちりを受けて遅刻スレスレ。
昼は栞のお弁当に巻き添えの上置き傘を奪われた。
帰りは日直でスタート出遅れ。
しかも名雪も部活(雨の日は体育館だ)で、ガードが外れた状態。
これは、非常に宜しくない。
栞がインターセプトしていてくれればいいんだけど、あの子も今日は美術部だったはず。
薄暗い教室の窓から昇降口付近を見下ろして、男物の傘を捜す。私の教室は見晴らしがいい。
目印は紺地の傘に緑色のアクセサリ。
そのアクセサリとは当然彼自身がつけたものではなく、彼の居候先の娘さんがつけたミニけろぴーなるものだ。
彼女いわく、
『めじるしだよっ』
とのことだがその目印の存在が知れるに連れ、彼女自身が彼と一緒との時はわざわざはずして
迷彩にしている。彼女もぼーっとして見えてなかなか侮れないのだ。
(あ…)
校舎を出て、だいぶ歩いた地点にミニけろぴー発見。あれは間違いない。
しかしそれを持っている人物が明らかに彼でない。もっと小柄だ。
(女の子?)
栞と同じリボン、一年生だ。
(ってことは……あの娘ね)
一年生の学年主席。物腰が上品な赤毛の子。
しかし彼は一緒にはおらず、一人のようだ。
(……………?)
なぜ彼女が彼の傘を使っているのか。今ひとつピンとこない。
答えに至るルートはあるはずだが、たどり着くまでひどく遠いような気がした。
『…………』
はっ、と突然彼女がこちらを見た――――目が合った、ような気がした。
しかし雨の夕方、遠くから電気をつけていない教室内の人間を視認するのは不可能だ。
川澄先輩じゃあるまいし、と当たり前のことに気づくまで2秒以上かかった。
彼女はぼうっとこちらを見ている。何かを考えるかのように。
『!!』
ややあって。彼女は衝撃の表情を浮かべて昇降口の方を向く。
彼女のそんな表情はめったに見た事がない。彼女は、自身の言葉どおり、『落ち着きがあり物腰が上品』だからだ。
そんな表情が見られるのは彼の悪戯が彼女を直撃したときぐらい。
何に驚いて―――衝撃を受けているのか。ますますわからない。
ただ一つ、なんとなく確信めいて感じたのは今自分はチャンスかピンチかのどっちかだということだけ。
だって彼女があんな表情を見せるのは、必ず彼絡みの時だから。
それはさておき、彼女の視線の先を追ってみる。
昇降口。ぱらぱらと吐き出される生徒たち。
その中になんとなく目にとまった―――オンナの勘というやつだ、とある傘があった。女性ものだ。
―――なんとなく、気品と、ある予感を感じて目を凝らしてみると。
傘の中には、あの艶やかな栗色の髪に緑のリボン。ああ、やられた。もう見なくても分かる。
その隣には一年生学年主席をして呆然とさせしめた、あの男がアホ面下げて楽しそーに歩いていた。
天野さんの表情。
相沢君の傘。
合い合い傘の二人。
……………あ、そういうことか。
多分、大体分かった。どういう経過で今があるのか。
まあともかく、一つ分かったのは
(私にとっては概ねピンチ、若干チャンスだってことね)
ため息一つついて鞄を取る。
『ひどいよー香里ー。何の為に私と部活の日をずらしてるんだよー』
『えぅー、祐一さん一人守れないお姉ちゃんなんて無能ですー』
親友と妹の非難の声が聞こえた気がして軽い頭痛を覚えた。