「美綴にも、似たような事言われた」
――――――――あたし『にも』?
ちょっと待て、話が繋がらない。
あたしにも、ということは今までの話の『彼女』とは私のことではない、のか?
「綾子にも?何て言われたの?」
「・・・えーっと。詳細は省く。やっぱ大体同じような事」
衛宮えらい!好感度アップだ。あの化け猫に洗いざらい知られるのは耐え難い。
心の中でガッツポーズをしようとしたところで、あたしは凍りついた。
「・・・まあ、綾子はね。アレがあったから少し敏感になってるのかもしれない、そういうのに」
『アレ』って、何だよ?
「魔術回路・・・とかが?」
―――――――――おい。
「そうね」
―――――――――なんだよ、それ。
知らないところで。あたしに関して、何かが起こっていた―――――?
『アレ』と言われて思い当たるのは、やっぱりあの夜の事しかない。
それと衛宮がおかしいって事に気づくのに関係があるのか?
それに、魔術回路っておいファンタジーの世界かなんかかよ?そんな冗談一番言いそうもない二人で、当たり前のように話すなよ。
「・・・俺、あんまり美綴に近づかない方がいいのかな。触発とかあるか?」
わずかな衣擦れの音。遠坂が机にでも座ったのか。
「・・・・・・まあ、関係ないんじゃない?綾子も大丈夫だったみたいだし今後はもう、ああいう何かがあるというわけでもないし」
「そっか。・・・美綴には迷惑かけたからな。これ以上はと思ってさ」
「・・・・・・・・・あきれた。あんた、あんな事まで自分の所為だと思ってたの?あれはライダーの・・・というか、あの馬鹿が仕掛けたことじゃないの」
「・・・まあそうだけど。でも、止められたかも知れない」
「―――――――――その思考、ほんと止めた方がいいわ」
ひどく冷えた、遠坂の声。
衛宮の応えは聞こえない。
「―――――――――むしろ、彼女たちに気づかれるわよ。それに」
遠坂の声が鋭くなって、また机ががた、と音を立てた。
「もし止めないと言うのなら、あたしが力づくでもやめさせる」
ああ、やっぱり普段の方は猫被りで、こっちが遠坂の本質なんだ。
そう自然に納得出来る、強い意志が篭った声だった。
沈黙。
・・・・・・・・・・・・・・・この沈黙って、もしかして。
「・・・それが彼女とアイツに対しての、あたしなりのけじめよ。さ、帰りましょ」
衛宮達が教室を出てくる。教室を覗いて見たい衝動に強く駆られていたが、あわてて引っ込んだ。
幸い昇降口はあたしの居る教室とは反対方向なので、無事やり過ごす事が出来た。
二人の足音が聞こえなくなったところで、あたしはへなへなとその場にへたりこんだ。
色んなことを聞きすぎて、頭がどうにかなってしまったっぽい。
まず。
衛宮に感じた違和感について、遠坂は何かを知っている。遠坂も、あれはよくないと思っているらしい。
あたしと、某『彼女』は、それについておそらく漠然と正しく類推している。
また『彼女』の事を、遠坂は誰だか知っている。
そして、とても重要な事。
『あの夜』、あたしに何が起こったか衛宮も遠坂も知っている。
あれに、衛宮は関係があると思っていて、遠坂は『あの馬鹿』のせいであって衛宮は関係ないと思っている。あの馬鹿って誰だ?
あと、ライダー・・・?とか言ってた。
全然分からない。あたしは、なにからどうしていけばいいんだ?
溜息をついて、床に胡坐をかいたところで。
「――――――――――美綴嬢ではないか?」
背後から声をかけられて、さすがにこの時は飛び上がるほど驚いた。