さて。
しかしその後の生活は、日常そのものだった。
いつものように私も衛宮も登校し、たまに衛宮ともくだらない話をして、部活に精を出す。
衛宮も、あの射の時の気配も無く、『それなりに』普通に生活しているように見えたので特にあたしも何をするでもなく、いち友人としてごく普通に暮らしていた。
―――――――幸い、あたしも『あの夜』の後遺症もない、ように感じる。
普通に暮らして、普通に青春して。そうすれば、多感な時期のちょっとした歪みも時が治してくれるのだろう。
衛宮も、あたしも。
放課後の部活帰りに教室に向かっていたときも、そう思っていた。
「どう?彼女は」
妙に落ち着いた声だった。
知ってる声なのに、知らない声。
「・・・うーん。今まで俺は人を見かけで判断していたかもしれない。反省する」
・・・これは、衛宮の声。
「答えになって無いわよ?」
あ――――これは、遠坂の声だ。
普段の印象と違いすぎて一瞬認識できていなかった。
遠坂は元からわりと大人びたしゃべり方をする方だとは思っていたけど、これは度を越して、別人のようで。
――――――今、入ってはいけない。
入ると、単に化け猫の皮が剥がれた所を見る事になるだけじゃあない。
あの中はなにか、踏み込んではいけないところ。
直感に従って、足音を忍ばせて手前の教室に入った。幸いあたし達の隣の教室は特別教室で他クラスの生徒に不審がられるおそれは少ない。
いざ気づかれたら、『いやぁ、恋人たちの語らいを邪魔するには忍びなくてね』でいい。
「・・・なんつーか。色々振り回されてはいるが、有難い事だと思う」
「そうね。いい傾向だと思うわ」
窓を閉める音。雑音が減って、少しまた聞き取りやすくなった。
「彼女、士郎の本質に気づいてるみたいね」
―――――――――ひょっとして、あたしの事か?
緊張で心拍数が跳ね上がる。別に色恋沙汰じゃなくても、他人が自分の話をしているのを聞くのはドキッとする。
それに振り回してたって程じゃないはずなんだが。
「・・・ああ。ただ別に何かを知っている、ってわけでもないみたいだけどな」
衛宮の口調は、いつものと同じような気がする。
「ええ。でも彼女、中々上手く言い当ててたわ」
「うぇっ!?直に聞いたのかよ!?」
がた、と机が動く音。
「そんなわけ無いじゃない。たまたま聞こえちゃっただけよ」
「・・・そうか。それならしょうがないけどな」
弓道場のアレ、聞かれてたのか化け猫に!?
他人の射見てわんわんボロ泣きしながらダメ出しして色をつけてやるだのとか。
恥ずい。あれは恥ずい。
くわぁ、と顔に血が上る。
「・・・あ、そういえば」
まだ何か続きがあるのか。再び聞くことに集中する。
「美綴にも、似たような事言われた」