綾色残心1
- 2008/05/17
- 16:28
泣いていた。
幼子のように声を上げて、あたしは泣いていた。
彼の両腕に取り縋って、繰り返した。
ごめん。ごめん衛宮、と。
----------------------------
それはなんてことない、本当に何の気の無い呼びかけのつもりだった。
久しぶり(と言うほど久しぶりでもなかったが)に衛宮を見て感じた、微妙な違和感。
あたしはそれを6割位の確率で『衛宮は少し元気が無い』のかもしれない、と結論付けた。
残りの4割はただのあたしの思い過ごし。
――――――――まあもしあれなら、ちょっと元気づけてやろうかね。
ほんとに、そんなちょっとしたお節介のつもりだった。
半ば挨拶と化している『弓道部に戻って来い』との誘いをかけ、いつも通り衛宮がそれを柔らかく断る。
そこで止めておけばよかったのだ。
なのに、何故か今日に限って。
今日は部活が無くて弓道場が空いていたのがいけなかったのか。
いまいち調子の上がらないあたしの射のどこが悪いか教えてよ、と渋る衛宮を無理矢理道場へ連れ出し、一通り見せた。
で、その後本当は、
―――――――――――調子悪いのかい、衛宮?
―――――――――――なんかあったのか?
―――――――――――悩みでもある?
そんな事を軽く振ってみようか、と思ってたはずなのに。
―――――――――――久々に衛宮の射、見せてよ?
本当に何故か分からない。何故か、たまたま、衛宮の射が見たくなったのだ。やや不調だった自分の射の参考にしたかったのか。
いつも通り、予想通り渋り嫌がる衛宮をなだめすかし、
『社会復帰したあたしの為にここはひとつ!』
と頼んだところで妙にあっさり、わかった、と衛宮は承諾した。
衛宮は10秒程弓を見つめていただろうか。
その後は、真に流れるように、八節――――――足踏みから胴造りへと流れていく。
そうそう。前に綺麗だなと思って見てた、衛宮の射はこんな感じ。
――――――――だっ、たっけ―――――?
本人だと言うのに。どこが違うと言えないのに、なんか、感じる差異。
弓構え。
強くなってくる違和感。
というよりも、この射は。
打起し。
―――――――――――なんて。
引分けから会。
―――――――――――なんて、『何も無い』
そして、離れ。
透明で、何も無い。
それなのに。
とても、とても悲しい―――――衛宮の『離れ』と、その『残心』。
幼子のように声を上げて、あたしは泣いていた。
彼の両腕に取り縋って、繰り返した。
ごめん。ごめん衛宮、と。
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それはなんてことない、本当に何の気の無い呼びかけのつもりだった。
久しぶり(と言うほど久しぶりでもなかったが)に衛宮を見て感じた、微妙な違和感。
あたしはそれを6割位の確率で『衛宮は少し元気が無い』のかもしれない、と結論付けた。
残りの4割はただのあたしの思い過ごし。
――――――――まあもしあれなら、ちょっと元気づけてやろうかね。
ほんとに、そんなちょっとしたお節介のつもりだった。
半ば挨拶と化している『弓道部に戻って来い』との誘いをかけ、いつも通り衛宮がそれを柔らかく断る。
そこで止めておけばよかったのだ。
なのに、何故か今日に限って。
今日は部活が無くて弓道場が空いていたのがいけなかったのか。
いまいち調子の上がらないあたしの射のどこが悪いか教えてよ、と渋る衛宮を無理矢理道場へ連れ出し、一通り見せた。
で、その後本当は、
―――――――――――調子悪いのかい、衛宮?
―――――――――――なんかあったのか?
―――――――――――悩みでもある?
そんな事を軽く振ってみようか、と思ってたはずなのに。
―――――――――――久々に衛宮の射、見せてよ?
本当に何故か分からない。何故か、たまたま、衛宮の射が見たくなったのだ。やや不調だった自分の射の参考にしたかったのか。
いつも通り、予想通り渋り嫌がる衛宮をなだめすかし、
『社会復帰したあたしの為にここはひとつ!』
と頼んだところで妙にあっさり、わかった、と衛宮は承諾した。
衛宮は10秒程弓を見つめていただろうか。
その後は、真に流れるように、八節――――――足踏みから胴造りへと流れていく。
そうそう。前に綺麗だなと思って見てた、衛宮の射はこんな感じ。
――――――――だっ、たっけ―――――?
本人だと言うのに。どこが違うと言えないのに、なんか、感じる差異。
弓構え。
強くなってくる違和感。
というよりも、この射は。
打起し。
―――――――――――なんて。
引分けから会。
―――――――――――なんて、『何も無い』
そして、離れ。
透明で、何も無い。
それなのに。
とても、とても悲しい―――――衛宮の『離れ』と、その『残心』。