兎も角、今朝の衛宮は『何か』によって、それまでの衛宮とは別人のようになっている。ただ、別人ではない。本質は『衛宮士郎』のままでありながら、『何か』で変わったのだ。
『何か』とは、事なのか。それとも、誰かなのか。それは全く想像がつかない。
「簡単に言ってえばこのような次第だ」
かいつまんで話すと、蒔の字が大きくため息をついた。
「かぁ――――。私にゃ昨日の衛宮も今日の衛宮もハンコで押したように一緒だがねー」
「う、うーん…私もよくわからないかなぁ…ごめんね鐘ちゃん」
珍しく蒔の字の目には真剣味があるのだが、漬物をかじりながらでは誠意も4割減だ。
「いや委細ない。寺の息子や後藤氏なども特に変わったと感じている様子も
ないしな。ああ、私から見て二人だけ変化があったのが居たが」
「え、誰かな?」
「………うむ、いや、思い過ごしかも知れん。多分、思い過ごしだ」
言ってしまおうかと思ったが、うち一人は由紀香の憧れの君だ。いらぬ勘繰りをさせても可愛そうだと言う計算を立てて軌道修正した。
「でも素敵だなぁ」
由紀香が柔らかい笑顔で手を胸の前で合わせる。
「何を突然、由紀っち?」
「衛宮くんはそんなに目立たないけど優しいし、もし二人が付き合ったらとてもステキなカップルだろうなぁ、って思って」
「まだ何も判らんよ、由紀香。それに私に対しても過大評価気味だ」
女神も斯くや、地獄の番犬さえも懐きそうな微笑みで斯様に言われたら少しばかりいい気になるのも致し方ないことだろう。
「そーだぞ由紀っち、んな無愛想カップルはきっと会話無くって五秒で解散五秒前だぜ!?」
蒔時の額と私の弁当箱が衝突したのも如何ともしがたいところだろう。
「…で、どーすんだよ?鐘っち」
「どうもなにも」
惚れたのならするべきことは一つだろう、と言って私は弁当を片付け始めた。
そろそろ昼休みも終りが近い。
「へー意外だなー。鐘っちはもっとなんだ、誰にも悟らせないようにして大人しくしてるかと思ったよ、あたしゃ」
「そうか?こう見えて、私は行動派な方だ」
まあ蒔の字の気持ちは分からんでもない。私の人生は総じて地味なものであるしこれといって特に強烈なやる気を見せた事も無い。
しかしそれはそれだけ興味を惹かせるものが無かった為に過ぎない。
にやりと笑って見せ、一足先に階段へと向かった。
ああ、ところでさっきから気になっていたんだが。
――――――――――――誰かの視線を、感じる。