正鵠の果て3
- 2009/07/17
- 23:00
「お待たせ」
回答らしきものを自分で見つけて少し余裕が出てきたせいか、氷室の表情がさっきより少しは和らいだように見える。
あたしも氷室ももう帰り支度は済んでいる。
今なら用具室の方は人はまずいないはずと考えて、氷室を誘うように歩き始めるとその後ろを静かに彼女はついてきた。
「急に呼び出してすまなかった」
「やや、あたしこそ待たしてすまなかったね」
「いや。むしろちょうど良かった」
広くない用具室で向かい合い、壁に互いに背を預ける。
硬い表情で前を向いたままの氷室の横顔は街灯に弱く照らされて、美人は不機嫌でも美人なんだなと場違いな事を思っていると、彼女は独り言のように付け加えた。
「多少なりとも頭が冷えたしな」
「・・・・・・ん、・・・・・・なんかあったのかい?」
あたしはストレスにも弱いがこらえ性も無い。黙ってても氷室の方から切り出してくると分かっててもついこちらから振ってしまう。
「・・・ふむ。そうだな、まあ単刀直入に言って」
今日初めて、僅かにだが彼女が笑ったのを見た。
「私事なんだが、今日、男に振られてな」
「・・・・・・・・・・・・」
ど直球。
「まあ、それ自体は良い」
いいのか。
「致し方のないことだからな。ああ、ところでその男とは誰とはまだ言ってなかったが?・・・・・・」
言いながら、氷室の視線がこちらに流れる。当ててみせろってことらしい。
あえてとぼけてもいいけど、多分これだろう。
「衛宮、だろ」
「御明察」
僅かにシニカルな笑みを浮かべて、彼女は大きめに頷いた。
当たった。
はっきり言ってあたしはなんらかの物的証拠も状況証拠も持っていなかったけれど、『そう』仮定するとものすごく腑に落ちたので妙な確信があった。
「なんだやはり知っていたのか。それなら話は早いかも知れんな」
「いや、正直今のあてずっぽ。そうかなって思っただけで」
「ふむ?・・・そうか、まあそうかもしれん、乙女の勘というやつか。・・・ということは何かしら関係者であるということ前提の下話させてもらおう」
無言で軽く頷く。
「さっきも言ったが振られる事自体は構わないのだ、こればかりは如何ともし難いことだからな。問題はその理由だ」
「・・・・・・・・・理由?」
理由も何も、と思ったけど首を僅かに横に傾けて続きを促す。
「他に惚れた女が居る、もしくは既に所謂彼女が居るというなら分かる。また私の事が気に入らないというならそれも分かる。ただ衛宮のそれはどちらでもない、と言うか要の得ない答えでどうにもこうにも押し問答だ。こういう手合いは四の五の言う前に貞操の二つや三つ奪ってやればよかったのだろうか」
「いやそれはどうかと」
普段大人しかったり冷静な奴ほどキレると怖いってのは本当だよなと思いながら突っ込んだ。
「まあそこでだ。美綴嬢には悪いが思い当たるふしが多少あってな、衛宮に聞いてみた。つまりあれか、美綴嬢がいるからかと」
「・・・・・・・・・・・・」
「すると覿面に動揺した男が居たんだが、何か知らないか?と聞きに来たのが今日の私がここに居る理由だ」
再び氷室の瞳があたしに向けられたけど、反応が薄い事が不満だったのか氷室は続ける。
「これまた失礼だが、所謂恋仲でないということは衛宮から聞いている。ああ、聞いているというのは若干語弊があるな。衛宮の応答と表情から私が確信しているだけだが」
「うん」
「ただ美綴嬢、貴女と衛宮の間には『何か』があったはずだ。おそらくは貴女にとって『貸し』のような何かが。・・・私は振られた身だ。既に衛宮に深く関わる資格は無いのだろうが、このままというのも余りに不快だ。もし差し支えなければそれが何か、あるいは私が振られた理由を教えて欲しい」
言い終えて、氷室は息をついた。
回答らしきものを自分で見つけて少し余裕が出てきたせいか、氷室の表情がさっきより少しは和らいだように見える。
あたしも氷室ももう帰り支度は済んでいる。
今なら用具室の方は人はまずいないはずと考えて、氷室を誘うように歩き始めるとその後ろを静かに彼女はついてきた。
「急に呼び出してすまなかった」
「やや、あたしこそ待たしてすまなかったね」
「いや。むしろちょうど良かった」
広くない用具室で向かい合い、壁に互いに背を預ける。
硬い表情で前を向いたままの氷室の横顔は街灯に弱く照らされて、美人は不機嫌でも美人なんだなと場違いな事を思っていると、彼女は独り言のように付け加えた。
「多少なりとも頭が冷えたしな」
「・・・・・・ん、・・・・・・なんかあったのかい?」
あたしはストレスにも弱いがこらえ性も無い。黙ってても氷室の方から切り出してくると分かっててもついこちらから振ってしまう。
「・・・ふむ。そうだな、まあ単刀直入に言って」
今日初めて、僅かにだが彼女が笑ったのを見た。
「私事なんだが、今日、男に振られてな」
「・・・・・・・・・・・・」
ど直球。
「まあ、それ自体は良い」
いいのか。
「致し方のないことだからな。ああ、ところでその男とは誰とはまだ言ってなかったが?・・・・・・」
言いながら、氷室の視線がこちらに流れる。当ててみせろってことらしい。
あえてとぼけてもいいけど、多分これだろう。
「衛宮、だろ」
「御明察」
僅かにシニカルな笑みを浮かべて、彼女は大きめに頷いた。
当たった。
はっきり言ってあたしはなんらかの物的証拠も状況証拠も持っていなかったけれど、『そう』仮定するとものすごく腑に落ちたので妙な確信があった。
「なんだやはり知っていたのか。それなら話は早いかも知れんな」
「いや、正直今のあてずっぽ。そうかなって思っただけで」
「ふむ?・・・そうか、まあそうかもしれん、乙女の勘というやつか。・・・ということは何かしら関係者であるということ前提の下話させてもらおう」
無言で軽く頷く。
「さっきも言ったが振られる事自体は構わないのだ、こればかりは如何ともし難いことだからな。問題はその理由だ」
「・・・・・・・・・理由?」
理由も何も、と思ったけど首を僅かに横に傾けて続きを促す。
「他に惚れた女が居る、もしくは既に所謂彼女が居るというなら分かる。また私の事が気に入らないというならそれも分かる。ただ衛宮のそれはどちらでもない、と言うか要の得ない答えでどうにもこうにも押し問答だ。こういう手合いは四の五の言う前に貞操の二つや三つ奪ってやればよかったのだろうか」
「いやそれはどうかと」
普段大人しかったり冷静な奴ほどキレると怖いってのは本当だよなと思いながら突っ込んだ。
「まあそこでだ。美綴嬢には悪いが思い当たるふしが多少あってな、衛宮に聞いてみた。つまりあれか、美綴嬢がいるからかと」
「・・・・・・・・・・・・」
「すると覿面に動揺した男が居たんだが、何か知らないか?と聞きに来たのが今日の私がここに居る理由だ」
再び氷室の瞳があたしに向けられたけど、反応が薄い事が不満だったのか氷室は続ける。
「これまた失礼だが、所謂恋仲でないということは衛宮から聞いている。ああ、聞いているというのは若干語弊があるな。衛宮の応答と表情から私が確信しているだけだが」
「うん」
「ただ美綴嬢、貴女と衛宮の間には『何か』があったはずだ。おそらくは貴女にとって『貸し』のような何かが。・・・私は振られた身だ。既に衛宮に深く関わる資格は無いのだろうが、このままというのも余りに不快だ。もし差し支えなければそれが何か、あるいは私が振られた理由を教えて欲しい」
言い終えて、氷室は息をついた。