正鵠の果て2
- 2009/07/17
- 22:57
それから数日は、心がざわつく事があってもそれを抑えながらと言うか冷静に眺めながら過ごす事が出来た。今日も部活で、遅錬の日なので練習を終えて射場を出て更衣室に向かう頃には陽はとっぷり暮れていた。
ふと弓道場の玄関の方を見ると見知った、しかしここでは ――――――弓道場では初めて見る顔があった。
というよりも、いきなり目が合った。
色素の薄い髪と肌、その理知性を示すような眼鏡。
あたしが彼女に気づくと、会釈するように彼女は軽く手を挙げた。
「お、――――――」
こちらも応えようとした瞬間にあることに気づいて、びくりと
体が震えた。
氷室の雰囲気が違う。違いすぎる。
それほど親しくしているわけではないが、以前話したときや日頃の彼女のそれは冷静さやシニカルな感じを示していたと思うそれが、今日は。
ものすごい冷たさ、か、怒り。
「…ああ、氷室。どうしたんだよ」
みっともなく声が枯れるのを押さえてなんとか絞り出したが、言ったそばから自分の察しの悪さと察した内容にいやな汗が背中にじわりと湧いた。
「どうしたか、は無いだろう」
口の端を歪めてかすかに笑う彼女を、
あたしは彼女になんにもしてないはずなのに、
怖い、
と思った。
「――――誰かに、用?」
なぜか珍しく、直感が働いた。
自分の言葉になんとなく空々しさを感じると、遠くにある何か同士が薄い飛行機雲のようなもので繋がっていく感じがする。
「私は貴女にしか用は無いよ、美綴嬢。多少お話がしたいことがあってね」
当然のように、何を今更というように、彼女はあたしを指名した。
やっぱりか、と思うとなんだか少し落ち着いた。
「着替えてくるから。ちょっと待っててよ」
「それは構わん。ただちと、――――あれでな。上がらせてもらっていいだろうか」
部活が終わって道場内は人が減ると踏んだのか。
彼女に上がるように伝えて、あたしは更衣室に向かった。
*************
着替えながら考える。
どうやら彼女はかなり気分を害しているらしい。
単にその発散相手にあたしを選んだのか?否だろう。
それなら三枝か蒔寺と過ごす方を選ぶだろうしそもそもあたしはそれほどは彼女のことを知らないし、彼女もまた然りだろう。
――――なぜ「あたし」なのか?
気づかないうちに彼女をひどく怒らせるような何かをしただろうかと思い巡らせてみても思い当たる節が無い。
とは言えあたしはあまり他人に悪意的にあたる事は少ないほうだと思っているけど、知らずにという可能性はある。まぁもしそれならそれが何かを教えてもらって、今の氷室はなんだか怖いが率直に謝ろう。それ以外にできる事はないわけだし。
―――しかし、本当にそんなことか―――?
着替え終えてロッカーについている小さな鏡の中の自分と向き合う。
(あえて、あたしを)
名指す、理由。
あ。
そうか。
これなら、有り得る。
その接点は思いつかなかったけど。
とてもそうは見えないけど。
この理由ならあたしに、あの態度も。
ある程度説明つくような気がする。
確率は低いはずだし、証拠らしいものも一切思いつかないのに妙にこれしかないような気がした。
最後に上着を手早く羽織って更衣室を出て、玄関へ向かう。
ふと弓道場の玄関の方を見ると見知った、しかしここでは ――――――弓道場では初めて見る顔があった。
というよりも、いきなり目が合った。
色素の薄い髪と肌、その理知性を示すような眼鏡。
あたしが彼女に気づくと、会釈するように彼女は軽く手を挙げた。
「お、――――――」
こちらも応えようとした瞬間にあることに気づいて、びくりと
体が震えた。
氷室の雰囲気が違う。違いすぎる。
それほど親しくしているわけではないが、以前話したときや日頃の彼女のそれは冷静さやシニカルな感じを示していたと思うそれが、今日は。
ものすごい冷たさ、か、怒り。
「…ああ、氷室。どうしたんだよ」
みっともなく声が枯れるのを押さえてなんとか絞り出したが、言ったそばから自分の察しの悪さと察した内容にいやな汗が背中にじわりと湧いた。
「どうしたか、は無いだろう」
口の端を歪めてかすかに笑う彼女を、
あたしは彼女になんにもしてないはずなのに、
怖い、
と思った。
「――――誰かに、用?」
なぜか珍しく、直感が働いた。
自分の言葉になんとなく空々しさを感じると、遠くにある何か同士が薄い飛行機雲のようなもので繋がっていく感じがする。
「私は貴女にしか用は無いよ、美綴嬢。多少お話がしたいことがあってね」
当然のように、何を今更というように、彼女はあたしを指名した。
やっぱりか、と思うとなんだか少し落ち着いた。
「着替えてくるから。ちょっと待っててよ」
「それは構わん。ただちと、――――あれでな。上がらせてもらっていいだろうか」
部活が終わって道場内は人が減ると踏んだのか。
彼女に上がるように伝えて、あたしは更衣室に向かった。
*************
着替えながら考える。
どうやら彼女はかなり気分を害しているらしい。
単にその発散相手にあたしを選んだのか?否だろう。
それなら三枝か蒔寺と過ごす方を選ぶだろうしそもそもあたしはそれほどは彼女のことを知らないし、彼女もまた然りだろう。
――――なぜ「あたし」なのか?
気づかないうちに彼女をひどく怒らせるような何かをしただろうかと思い巡らせてみても思い当たる節が無い。
とは言えあたしはあまり他人に悪意的にあたる事は少ないほうだと思っているけど、知らずにという可能性はある。まぁもしそれならそれが何かを教えてもらって、今の氷室はなんだか怖いが率直に謝ろう。それ以外にできる事はないわけだし。
―――しかし、本当にそんなことか―――?
着替え終えてロッカーについている小さな鏡の中の自分と向き合う。
(あえて、あたしを)
名指す、理由。
あ。
そうか。
これなら、有り得る。
その接点は思いつかなかったけど。
とてもそうは見えないけど。
この理由ならあたしに、あの態度も。
ある程度説明つくような気がする。
確率は低いはずだし、証拠らしいものも一切思いつかないのに妙にこれしかないような気がした。
最後に上着を手早く羽織って更衣室を出て、玄関へ向かう。