あたしは割とストレスに弱い方だ。
ストレス源がわかっていたら、それに耐えずにすぐ解消しようとする。あたし自身それを理解していたし、そんな性格が嫌いでなかった。
部長権限というのは肩が重い点もあるが割かし便利だと思う。
例によって無給の副用務員たる衛宮の業務終了時刻にあわせて部活を終えて最後に鍵を閉めて弓道場を出る。
人のことをそれ程は言えない程度にはあたしもポーカーフェイスが苦手な自覚はある。
車道を行き交う車の音が、普段より口数が少ない事を紛らわせてくれるのが有り難かった。
涼しい夜道。
おてんとさんの下じゃないことが、少しあたしを歯切れ悪くさせているような気がした。
それでもあたし達の歩みは進むし、時も止まらない。その結果として、いつも別れるT字路に辿り着き、そしてまた明日を言う直前にようやくあたしは言いたい事を言えた。
「衛宮」
「ん?なんだよ」
「衛宮はさ」
「あたしのことさぁ、どう思ってる?」
そんなつもりはなかったのに今までの色々なモヤモヤの説明をすっ飛ばして、抽象的な直球。
自分で内心驚くほど平坦な声。他意なさげな、人格について問うたかのような。
「――――――あ・・・――――」
それほど街灯も明るくなかったけど、その時の衛宮の表情はよく覚えている。
冗談でも照れてくれたら、良かったのに。
いや、『友達だと思ってる』っていう気まずさげな表情でも良かったのに。
本人にはきっと分からないだろう。なのに、嫌になるほど分かりやすく伝わってくるそれに、あたしの唇は勝手に動いた。
「ごめんなんでもない。忘れてよ。じゃ、あたしこっちだし。おやすみ」
「・・・、――――ああ」
一方的に告げてT字路を曲がる。
衛宮から自分の後姿が見えなくなるだろう角を曲がると、ひどく疲れた気分に襲われた。ここぞの試合で負けて帰る時みたいな。
本当に落胆したときというのは、溜息も出ない。
衛宮の、あの表情を思い返す。
言いたいことは良く分かった。なんて言うんだろうあれは、何かに似ていた。
「・・・・・・・・・ああ、そうか」
あれだ。きっとあんな感じだ。あまりにもいい喩えが見つかり、思わず声が出た。
慰める気があるのかないのか視線の先で月に照らされたあたしの影が、ゆっくりとアスファルトの上をゆらゆらと進んでいった。