眩夜蜜月２

それから、あたし達は夜道を新都方面へと歩いた。
二人の間に言葉は少ない。

元々衛宮は饒舌なほうでない。あたしが話を振らない限り、沈黙と脇を通り過ぎていく車のエンジン音がたまに行き交うだけだ。


校舎を出るとき、我ながらすごく自然に大きな手の指先をつまんだ。
すぐに、それは握り返されて今も離れずにいる。
不思議と知り合いに会ったら、と言う不安は持たなかった。
別にカレシカノジョで確定という訳でもないけど、もし誰かに会って、このあたしの右手と衛宮の左手について何かいわれても
『うん。ちょっと事情があってね』
と穏やかに返すだろう。

それでどう思われても構わない。実際、あたしと衛宮がどんな関係であろうとも。

ただその表情が。もしこっちを振り向いて、笑顔―――――いや、はにかみながらででも良かった―――――なら。
ものすごく安心出来たのに。
その横顔は、仏頂面でもなく真剣だったことが無性に胸につかえる。




……なんか、妙に胸が、つかえてる気がする。
鳩尾のあたりが痛いような。
一つ、大きめに深呼吸をすると衛宮がぎこちない笑顔で、妙に目だけ真剣な笑顔でこちらを見たので、なんでもないと軽く頭を振った。




少し楽になったか、と思ったのは勘違いだった。橋を渡って、もうすぐあの路地だっていうのに。

右手だけで衛宮の左手をほどかせて、手首のあたりを掴み直す。

「美綴。大丈夫か？」
「んん、なんでもない。…………」
衛宮の視線があたしから離れない。
その目は、気に入らない。本気で心配されているその目は。

でも正直、あたしはなんだかだんだんおかしくなっている。
息が上がり始めていてなんだか眠いような気もする。

『あの路地』は。
すぐに切り上げよう。別にそこで何か期待してたわけじゃ、ない。
そのあとどっか喫茶店に入って座れば落ち着くはずだ。部活疲れだ。
鼻でゆっくり呼吸して表情を落ち着け、衛宮の手首を結構な力で握っていたことに気づいて緩めてみたら少し衛宮も安心したらしく、前へと視線を戻した。

もうとっくに日は暮れてるはずなのに、段々昏くなってきて。
息がやっぱり上がっていく。

この角を、曲がれば。『あたしが発見された』、路地だ。





――――――ああ、でも、ここってこんな急な上り坂だったっけ――――？





目がチカチカして、世界がモノクロになっていく。
息が苦しい。
頭を上げていられず、だらんと下げる。
唯一の頼りの衛宮の左腕を縋る様に抱き抱えると、その腕が動いて、上から美綴、美綴って呼ぶ声が聞こ―――――――