―――――坂上先輩は我らが生徒会の会長である。
優れた手腕で学生活動を引っ張っていってくれるすばらしき先輩である。
前にも言った気がするけど、但し若干アタマがゆるかったりする。
頭脳は明晰。成績優秀。文武両道。才色兼備。
だのに特定の事に関してだけは恐ろしくアレな、素敵な先輩だ。
うちの学校ではたまに昼休みに放送がかかる。
生徒会選挙演説だったり、音楽紹介だったり地元の微妙な文化人のインタビューだったりするのだが、今日は交通安全週間の案内だった。
『―――で自転車による事故が大変増えている。くれぐれも――――』
こういうつまらない(と私がいっちゃあなんだが)案内は基本的に生徒会の仕事だ。今日の当番は会長らしいので私はノンキに友人と弁当をつついていられる。
「あんたんとこの会長ってさ、凛々しい声してるよねー」
「んー、だいたいそうかもね?」
「『だいたい』って何よ?」
「うーん?なんだろう」
いや、頭のネジが抜けてる事があってそういう時はかなり違うんだけどとぶっちゃけない私って大人の女だと思う。
ただ、ぽつりと独り言は出た。
「・・・・・・今日は大丈夫かな・・・」
「って、何がよ?」
「えーっと。公序良俗的に」
『飛び出し等にも十分注意するように。またこのあたりではないが、通り魔も出ているので女子はなるべく複数か男子と帰るように』
「・・・?」
「まあ、私達には関係のない話。卵焼きもらっていい?」
首をかしげる友人を尻目に、あたしはミートボールを平らげた。
『恋人などがいる場合には、男子は彼女と手を繋いで歩くと安全だろう。もちろん男子が道路側だ』
「・・・・・・何この放送」
「ああ、考えたら負けだから。ま、私ら彼氏ナシには大きなお世話かもね」
さすがに日々会長と接していれば悪意でないのも分かるし慣れてもくる。
『そうだな、それにスーパー平松屋の前を通ると歩道があるのでいい。今日はごぼうと人参が安いので肉じゃがだ』
「・・・・・・・・・そろそろかしら」
「ってホントなによそれ?つーかこの放送も何!?」
廊下の方からだだだだだだだ、と全力疾走してくる音が聞こえたかと思うと一瞬で私達の教室前を走り抜け、誰かが放送室へと向かっていく。
更にその後ろを追いかける影。
それぞれ誰だかはもう分かっているので私も今更見ない。だって卵焼きもそろそろ無くなっちゃうし。
「多分すべりこみ、アウトー・・・?」
「・・・・・・あんたもなんか電波受信してる?」
「いや、つい因果関係を知る者として」
『あと、健全な青少年ならば事故は防がなくてはならない。広田薬局にも寄ってい』
「ぶふっ!?」
「あ、汚な」
目の前で肉そぼろを噴出すのはやめて欲しい。
ところで会長、そこらへんの発言はかなりアウトですから次回から気をつけて下さいね?
と思っていたらスピーカから、ばたん、と扉が開く音がした。
『智代!!!校内放送でプライベートを放送するのはやめてくれ!!』
『と、朋也!?で、でも私は交通安全について一般的な話をしているだけで、一緒に帰るサインだなんてこの放送からは誰も気づかないだろう!?』
『わかってないのはお前だけだ、しかも最後のは交通と関係ねぇ!!』
『いいから君達放送のスイッチを切ってからにしてくれ!!』
『げっマジかよ!!おいスイッチは!?・・・プツッ』
副会長フォローお疲れ様です。若干間に合わなかったようですが。
「・・・・・・あんたんとこの会長さんって、ちょっと変わってるね?」
「んー、でも蹴りはすごいのよ?」
―――――坂上先輩は我らが生徒会の会長である。
最近ちょっと色ボケ激しいけど愛すべき先輩である、まる。