――――今更、言葉は要らない。
あれから、たまに考えていた事。
時が解決するのかなと思っていた。
しかしそうも言ってられないようなんだ、――――。
早朝、弓道場を訪れた。
藤ねえに鍵を借りて、弓道部の朝錬が始まるよりも大分早く。
早起きは苦じゃない。
ややひんやりとした弓道場の本座に、静かに正座する。
的が低い旭日に照らされ、オレンジ色に弱く光る。
あたりは静穏。
瞑目。
無念無想ではなく。
唯一つの事を想う。
静かに立ち上がり、射位へ向かう。
―――――――この射を終えたら、もう。
それでも、心は不思議と穏やかで。八節も、なめらかで。
納得いく射が出来るまでやろう、と考えていたのに。
たぶん、一発で決まる。
足踏みから胴造り、弓構え、打起し。
引分けながら、彼女への万感の想いを。想いを、込めていく。
真摯な瞳。怒った顔。食べてる時の顔。そして、笑顔。
どこまでも、誠実で。
どこまでも、まっすぐな。
その先で、彼女に、『会』い。
(――――――放て・・・!)
離れ。
そして、――――――残心。
的矢は、当たり前のように。
確認するまでもなかった。
「・・・・・」
一言呟いて見上げた朝日が滲んだのは、たぶん光が目に染みたから。