思いのたけを、全力で肘へ02
- 2008/03/29
- 23:25
「……どういう意味かしらね。もう少し詳しく説明してくれる?」
「…………簡単に言ってしまいますと。…例えば、水瀬先輩」
ゆっくりと、彼女は語り始めた。
「名雪?」
こくり、と小さく彼女は頷いて、テーブルに視線を落とした。
「水瀬先輩は、7年間。相沢さんの事を待ち続けていました」
「そうね」
それだけでピンと来た。
以前私も思った事。
だがここで彼女の話を遮るのも無粋だ。それに、これから彼女が述べるであろう持論に説得されてみたい、という軽い衝動にも駆られていた。
「川澄先輩も、夜毎校舎で自分の命を矛と盾に、相沢さんを待ち続けて」
「ええ」
「真琴は相沢さんへの想いを力に、人とまで成り彼を求めて」
「そう聞いているわ」
「あゆさんは、長い眠りの間さえも相沢さんを思い続けていました」
「……きっと、そうだったのでしょうね」
「そして、栞さんは」
彼女が私を視る。
来た。なんか擽られるのを堪えるような気持ち。
「やはり自らの命を縮めてでも彼に会いに行き、同じ時を過ごす事を求めました」
「……、そうね」
相槌をうちながら少し微笑んでしまった。話し手への気遣いだったのか、余裕を見せたかっただけなのか自分でも良く分からない。
「一方、私………『達』は」
物憂げに窓の外に目をやる彼女を、絵になるわと的外れに感心しながら私は観た。
「彼との間に、そこまでの絆を持ち合わせてはいない。謂わば、『普通の恋愛』をしているに過ぎないのでは、と思うのです」
「……………」
心もち首を傾げて、続けて?と頷いてみせる。
「彼女たちにとって、相沢さんは『生きる全て』でしょう。全てをかけて、彼を求めている。少なくとも私にはそう見えます。その絆、ひたむきさに対して私達は敵うのでしょうか?」
疑問を投げかけるようでもあり、反語のようでもある穏やかな彼女の口調でそれに、と彼女は続ける。
「彼女―――達から、彼女達ほどの激しい想いも持ち合わせない私が奪ってしまったとしたら。それは、許される事でしょうか?私は、真琴から。美坂先輩は、栞さんから。
彼を奪う、と言う事が本当に出来ますか―――――?」
数秒の間彼女は私を見つめたのち、グラスへ視線を落とした。
かつて私も自らに問い、自分なりに折り合いをつけたジレンマ。
賢いこの娘でさえ迷うのか、という思いに再び心が心地よく揺らされた。
こんな時は、明確に。無言で自分の中で回答するより、誰かの口から両断して欲しい。
それは彼女だけじゃなくて私もだったんだな、と軽く微笑みながら携帯を取り出した。
「難しい質問ね。私じゃいい答えを返してあげられないような気がするわ。
…こういうときは人生の先輩に、訊いてみましょ」
「…………簡単に言ってしまいますと。…例えば、水瀬先輩」
ゆっくりと、彼女は語り始めた。
「名雪?」
こくり、と小さく彼女は頷いて、テーブルに視線を落とした。
「水瀬先輩は、7年間。相沢さんの事を待ち続けていました」
「そうね」
それだけでピンと来た。
以前私も思った事。
だがここで彼女の話を遮るのも無粋だ。それに、これから彼女が述べるであろう持論に説得されてみたい、という軽い衝動にも駆られていた。
「川澄先輩も、夜毎校舎で自分の命を矛と盾に、相沢さんを待ち続けて」
「ええ」
「真琴は相沢さんへの想いを力に、人とまで成り彼を求めて」
「そう聞いているわ」
「あゆさんは、長い眠りの間さえも相沢さんを思い続けていました」
「……きっと、そうだったのでしょうね」
「そして、栞さんは」
彼女が私を視る。
来た。なんか擽られるのを堪えるような気持ち。
「やはり自らの命を縮めてでも彼に会いに行き、同じ時を過ごす事を求めました」
「……、そうね」
相槌をうちながら少し微笑んでしまった。話し手への気遣いだったのか、余裕を見せたかっただけなのか自分でも良く分からない。
「一方、私………『達』は」
物憂げに窓の外に目をやる彼女を、絵になるわと的外れに感心しながら私は観た。
「彼との間に、そこまでの絆を持ち合わせてはいない。謂わば、『普通の恋愛』をしているに過ぎないのでは、と思うのです」
「……………」
心もち首を傾げて、続けて?と頷いてみせる。
「彼女たちにとって、相沢さんは『生きる全て』でしょう。全てをかけて、彼を求めている。少なくとも私にはそう見えます。その絆、ひたむきさに対して私達は敵うのでしょうか?」
疑問を投げかけるようでもあり、反語のようでもある穏やかな彼女の口調でそれに、と彼女は続ける。
「彼女―――達から、彼女達ほどの激しい想いも持ち合わせない私が奪ってしまったとしたら。それは、許される事でしょうか?私は、真琴から。美坂先輩は、栞さんから。
彼を奪う、と言う事が本当に出来ますか―――――?」
数秒の間彼女は私を見つめたのち、グラスへ視線を落とした。
かつて私も自らに問い、自分なりに折り合いをつけたジレンマ。
賢いこの娘でさえ迷うのか、という思いに再び心が心地よく揺らされた。
こんな時は、明確に。無言で自分の中で回答するより、誰かの口から両断して欲しい。
それは彼女だけじゃなくて私もだったんだな、と軽く微笑みながら携帯を取り出した。
「難しい質問ね。私じゃいい答えを返してあげられないような気がするわ。
…こういうときは人生の先輩に、訊いてみましょ」