「で?」
「・・・は?」
人んちの居間で雑誌片手に寝っころがって煎餅かじりながらいきなり『で?』と言われても。
『セ?』なら『パ!』だけど。
「何すっとぼけてんのよ。コレよコレ」
視線もくれずに小指を立てる遠坂は、真面目な時はマジメなんだが最近ちょっと下品かなと思う。
こっちも夕飯用にチラシのチェックが忙しいんだが。
「・・・・・・氷室、の事か?」
「あらぁ?他になんか思い当たるフシがあるのかしら」
「いえ何も」
・・・美綴のことか、レッドデビルめ。あれは違うっつーのに。
「いや。特には何も」
「・・・してないってこと?されてないってこと?」
「どっちも、っておい危ねえな!」
こっちを見もしないでいきなりガンドぶっ放しやがった。
避けた先の柱が少し焦げてている。後で補修しないと。
「なーにやってんのよアンタ。それはちょっと不誠実じゃない?」
「・・・と言われても」
遠坂はようやく雑誌から顔を上げて、こちらを軽く睨んだ。
「そう簡単にどうこうしろ、って言われても無理なのは分かるだろ」
今は現界しない彼女。あまり具体的な人名はなんとなく出したくないというのは遠坂も分かってくれる暗黙の了解だ。
「――――嫌いなの?」
「いやそれはない」
「いい娘でしょ」
「それは思う。・・・・・・けどさ、あんま、それほど良くは知らないし」
唇の感触は割とよく知ってるんだけど。
「彼女はね」
遠坂は言いながら雑誌をカバンにしまい、さめかけた湯呑みに手を伸ばす。
「あんたが、いつまでも自分に囚われてる事を望んでないのは解るでしょ」
「――――――ん・・・」
それは確信出来る。曖昧な返事をしたのは、多分俺の気持ちの所為。セイバーなら、きっとそう言う。
「もういいんじゃないの?このままじゃ、誰も幸せにならないわ。―――――誰も。」
「・・・・・・・・・・」
「それに。知らないからお断り、っていうのは不誠実よ。もし断るなら、知る努力をして、知った上で断るべきね。それが礼儀というものよ」
「・・・・・・ん。・・・まあ、それはそうかも」
「・・・じゃ、私帰るわ。そろそろ藤村先生帰ってくるでしょ」
湯呑みを置いて、遠坂は帰り支度を始めた。それにあわせて俺も卓袱台の上のものを片付けるため、のろのろと立ち上がる。
玄関に続く縁側で遠坂は最後に振り返って、言った。
「本当に。それがセイバーの為だと私は思うわ」
「・・・・・・・・・・」
俺は答えられずにいるまま、彼女は玄関を出て行った。