思いのたけを、全力で肘へ01
- 2008/03/29
- 23:01
行き慣れた喫茶店のドアを開けると、比較的目に付きやすい席に彼女はいた。
お待たせしたかしら、と声をかけながら向かいの席に着く。
ストローの刺さった彼女のアイスティーの氷は半分くらいが溶けていた。
いえ、と答えながら彼女は読んでいたハードカバーの本をぱた、と閉じた。
カバーがかかっていて中身は知る由も無い。
――――良かったら百花屋でお茶でも如何ですか?
誘われた時、顔には出さなかったが心の中であら、と思った。
彼女のことは勿論知っているが、それほど親しい間柄ではない。
クラスメートの栞は彼女と仲が良く、しょっちゅう連れまわしているらしく家でよく名前が出る。
栞から天野さん連れてどこどこ行ってなにした、と言う話を聞く度に正直天野さんに同情を禁じ得ない事もしばしばだったが、それでこちらの被害がかなり減少している為彼女には申し訳ないが今しばらく栞の相手をしてもらおう。病気がちで(今ではそれを疑いたい位はっちゃけているが)学校にあまり親しい友人が居なかった栞の為にも。
まあそうして恩を私は仇で返している彼女だが、面識は無いなんてことはなく皆で遊ぶ事もよくあるので話をした事も一度二度では無い。
しかし敢えて一対一でお茶する、という間柄でもなかった。
それはどうも、これは私の推測だが多分彼女は私を苦手にしている為だろう、と漠然と思っていた。
彼女と私は比較的タイプが近い。理知的で、ある程度人と距離を置いた話し方、付き合い方をする。そこに好意を持って――――例えば私にとって栞のように、彼女にとって沢渡さんのように飛び込んで来られれば決して撥ね付けるようなつもりはないのだが、如何せん私『達』はそこらへん受身な上、互いに考えすぎ気を使いすぎてしまう。その為互いに近づき難いのだ。
とはいえ、彼女の態度には何ら嫌悪感は見えない。私も彼女に対して好意はあっても悪意は持ち合わせていない。ゆえに、彼女は私が単純に『苦手』なのだろう、と結論付けていた。
彼女は上品な可愛らしさがあるだけでなくなかなかに賢く。
あえて『私』をお茶に誘う、つまり
――――おそらくは何か私に言いたいか、聞きたい事がある――――
という事に非常に興味をそそられた。
今日は臨時に部活が休みである事を顧問の先生に心の中で軽く感謝し、諾の返事を彼女に返した。
彼女の手元にはタルトとアイスティー。
私もゆっくり付き合う意志を示す為、コーヒーにシフォンケーキを注文した。
「ここのオレンジタルトが私は好きですが、美坂先輩は」
「そうねえ、あたしはイチゴサンデー以外ならそれなりになんでも好きだわ。
アレだけはもう見過ぎちゃって胸焼けしてダメね」
親友を肴に二人してふふふ、と笑った。
笑った彼女の笑顔は曇ってはいない。
彼女の『話したい事』は、おそらく私達にとって悪い知らせの類では無いようだ。
その後名雪の寝ぼけ武勇伝の事、苦手な科目の事、いま天野さんが読んでいた本の事、クラスでの栞の事なんかのおしゃべりに興じた。
まあ誘われた時点であらかた目星はついていたが、私達の間にある共通点――――を避けた雑談に、これから切り出されるであろう『彼女の話したい事』が何についてであるか確信を深めた。
焦れる事もない。彼女が切り出したくなるまでゆっくり待とう―――――
と思っていたが、ホントに栞の無茶には困ったものねぇ、と言った所でタイミング良くふぅー、と間を取って彼女をちらりと見た。
しまったちょっと露骨過ぎたか。
「…ところで今日、美坂先輩をお誘いしたのはちょっと伺いたい事がありまして」
「あら、何かしら」
良かった乗ってきてくれた。あるいは気を遣って乗ってくれたのかもしれない。
「相沢さんの事ですが」
「相沢くんの事?」
私達はお互いの(というか全員の)気持ちは知っている。
彼のことは諦めてくれ、なんて話は互いに無駄だなんてことは賢い彼女でなくとも知っている。
美坂先輩の気持ちも存じているつもりで決して馬鹿にするようなつもりはないのですが、と彼女は前置きして出てきた彼女の言葉は意外なものだった。
「自分の想いの強さに不安を感じた事はありませんか?」
お待たせしたかしら、と声をかけながら向かいの席に着く。
ストローの刺さった彼女のアイスティーの氷は半分くらいが溶けていた。
いえ、と答えながら彼女は読んでいたハードカバーの本をぱた、と閉じた。
カバーがかかっていて中身は知る由も無い。
――――良かったら百花屋でお茶でも如何ですか?
誘われた時、顔には出さなかったが心の中であら、と思った。
彼女のことは勿論知っているが、それほど親しい間柄ではない。
クラスメートの栞は彼女と仲が良く、しょっちゅう連れまわしているらしく家でよく名前が出る。
栞から天野さん連れてどこどこ行ってなにした、と言う話を聞く度に正直天野さんに同情を禁じ得ない事もしばしばだったが、それでこちらの被害がかなり減少している為彼女には申し訳ないが今しばらく栞の相手をしてもらおう。病気がちで(今ではそれを疑いたい位はっちゃけているが)学校にあまり親しい友人が居なかった栞の為にも。
まあそうして恩を私は仇で返している彼女だが、面識は無いなんてことはなく皆で遊ぶ事もよくあるので話をした事も一度二度では無い。
しかし敢えて一対一でお茶する、という間柄でもなかった。
それはどうも、これは私の推測だが多分彼女は私を苦手にしている為だろう、と漠然と思っていた。
彼女と私は比較的タイプが近い。理知的で、ある程度人と距離を置いた話し方、付き合い方をする。そこに好意を持って――――例えば私にとって栞のように、彼女にとって沢渡さんのように飛び込んで来られれば決して撥ね付けるようなつもりはないのだが、如何せん私『達』はそこらへん受身な上、互いに考えすぎ気を使いすぎてしまう。その為互いに近づき難いのだ。
とはいえ、彼女の態度には何ら嫌悪感は見えない。私も彼女に対して好意はあっても悪意は持ち合わせていない。ゆえに、彼女は私が単純に『苦手』なのだろう、と結論付けていた。
彼女は上品な可愛らしさがあるだけでなくなかなかに賢く。
あえて『私』をお茶に誘う、つまり
――――おそらくは何か私に言いたいか、聞きたい事がある――――
という事に非常に興味をそそられた。
今日は臨時に部活が休みである事を顧問の先生に心の中で軽く感謝し、諾の返事を彼女に返した。
彼女の手元にはタルトとアイスティー。
私もゆっくり付き合う意志を示す為、コーヒーにシフォンケーキを注文した。
「ここのオレンジタルトが私は好きですが、美坂先輩は」
「そうねえ、あたしはイチゴサンデー以外ならそれなりになんでも好きだわ。
アレだけはもう見過ぎちゃって胸焼けしてダメね」
親友を肴に二人してふふふ、と笑った。
笑った彼女の笑顔は曇ってはいない。
彼女の『話したい事』は、おそらく私達にとって悪い知らせの類では無いようだ。
その後名雪の寝ぼけ武勇伝の事、苦手な科目の事、いま天野さんが読んでいた本の事、クラスでの栞の事なんかのおしゃべりに興じた。
まあ誘われた時点であらかた目星はついていたが、私達の間にある共通点――――を避けた雑談に、これから切り出されるであろう『彼女の話したい事』が何についてであるか確信を深めた。
焦れる事もない。彼女が切り出したくなるまでゆっくり待とう―――――
と思っていたが、ホントに栞の無茶には困ったものねぇ、と言った所でタイミング良くふぅー、と間を取って彼女をちらりと見た。
しまったちょっと露骨過ぎたか。
「…ところで今日、美坂先輩をお誘いしたのはちょっと伺いたい事がありまして」
「あら、何かしら」
良かった乗ってきてくれた。あるいは気を遣って乗ってくれたのかもしれない。
「相沢さんの事ですが」
「相沢くんの事?」
私達はお互いの(というか全員の)気持ちは知っている。
彼のことは諦めてくれ、なんて話は互いに無駄だなんてことは賢い彼女でなくとも知っている。
美坂先輩の気持ちも存じているつもりで決して馬鹿にするようなつもりはないのですが、と彼女は前置きして出てきた彼女の言葉は意外なものだった。
「自分の想いの強さに不安を感じた事はありませんか?」